「ある所に身分の高い人が住んでいました。やがてその地方の王に任命されるため、遠くの都に出かけることになりました。 そこで、出発前に十人の家来を呼び寄せ、留守中に事業を始めるように、めいめいに一ミナ(一ミナは当時の約百日分の賃金に当たる)ずつ渡しました。 ところがそこの住民の中には、その人が王になるのを快く思わない人々があり、反対の声を送りつけました。 さて、その人は王位を受けて帰ると、さっそく資金を預けた家来たちを呼び集め、報告をさせました。 最初の家来は、元金の十倍というすばらしい利益をあげたことを報告しました。 王は非常に喜び、『よくやった! 感心なやつだ。少しばかりのものにも忠実に励んでくれた。ほうびに、十の町を治めさせよう』と言いました。 次の家来が進み出て、元金の五倍の利益をあげたことを報告しました。 『よくやった! おまえには五つの町を治めてもらおう。』王は上きげんで言いました。 ところが、三番目の家来は、預かった資金をそっくりそのまま差し出すではありませんか。『私はお金を大切に保管しておきました。 せっかくもうけても、横取りされてしまうのではつまりません。あなたはほんとうにひどい方で、ご自分のものでないものまで取り立て、他人の作った穀物さえ取り上げる方ですから。』 王は激しく怒って言いました。『なんて悪いやつだ! わしが、そんなにひどい人間だと言うのか。それほどよくわかっていたのなら、 なぜ銀行に預けておかなかったのか。そうすれば、利息ぐらいついたのに。』 王は側近の者たちに、『さあ、彼から金を取り上げ、一番多くもうけた者に与えなさい』と命じました。 『ですが王様。あの者はもうすでに、たくさん持っていますが。』 王は言いました。『そのとおり。しかし、持っている者はさらに多く与えられ、持っていない者は、そのわずかな物さえ失ってしまうのだ。 それから、謀反を起こした者たちはすぐここに連れて来て、わしの目の前で殺してしまえ。』」
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