ルカによる福音書 1:1-56

ルカによる福音書 1:1-56 口語訳

わたしたちの間に成就された出来事を、最初から親しく見た人々であって、 御言に仕えた人々が伝えたとおり物語に書き連ねようと、多くの人が手を着けましたが、 テオピロ閣下よ、わたしもすべての事を初めから詳しく調べていますので、ここに、それを順序正しく書きつづって、閣下に献じることにしました。 すでにお聞きになっている事が確実であることを、これによって十分に知っていただきたいためであります。 ユダヤの王ヘロデの世に、アビヤの組の祭司で名をザカリヤという者がいた。その妻はアロン家の娘のひとりで、名をエリサベツといった。 ふたりとも神のみまえに正しい人であって、主の戒めと定めとを、みな落度なく行っていた。 ところが、エリサベツは不妊の女であったため、彼らには子がなく、そしてふたりともすでに年老いていた。 さてザカリヤは、その組が当番になり神のみまえに祭司の務をしていたとき、 祭司職の慣例に従ってくじを引いたところ、主の聖所にはいって香をたくことになった。 香をたいている間、多くの民衆はみな外で祈っていた。 すると主の御使が現れて、香壇の右に立った。 ザカリヤはこれを見て、おじ惑い、恐怖の念に襲われた。 そこで御使が彼に言った、「恐れるな、ザカリヤよ、あなたの祈が聞きいれられたのだ。あなたの妻エリサベツは男の子を産むであろう。その子をヨハネと名づけなさい。 彼はあなたに喜びと楽しみとをもたらし、多くの人々もその誕生を喜ぶであろう。 彼は主のみまえに大いなる者となり、ぶどう酒や強い酒をいっさい飲まず、母の胎内にいる時からすでに聖霊に満たされており、 そして、イスラエルの多くの子らを、主なる彼らの神に立ち帰らせるであろう。 彼はエリヤの霊と力とをもって、みまえに先立って行き、父の心を子に向けさせ、逆らう者に義人の思いを持たせて、整えられた民を主に備えるであろう」。 するとザカリヤは御使に言った、「どうしてそんな事が、わたしにわかるでしょうか。わたしは老人ですし、妻も年をとっています」。 御使が答えて言った、「わたしは神のみまえに立つガブリエルであって、この喜ばしい知らせをあなたに語り伝えるために、つかわされたものである。 時が来れば成就するわたしの言葉を信じなかったから、あなたは口がきけなくなり、この事の起る日まで、ものが言えなくなる」。 民衆はザカリヤを待っていたので、彼が聖所内で暇どっているのを不思議に思っていた。 ついに彼は出てきたが、物が言えなかったので、人々は彼が聖所内でまぼろしを見たのだと悟った。彼は彼らに合図をするだけで、引きつづき、口がきけないままでいた。 それから務の期日が終ったので、家に帰った。 そののち、妻エリサベツはみごもり、五か月のあいだ引きこもっていたが、 「主は、今わたしを心にかけてくださって、人々の間からわたしの恥を取り除くために、こうしてくださいました」と言った。 六か月目に、御使ガブリエルが、神からつかわされて、ナザレというガリラヤの町の一処女のもとにきた。 この処女はダビデ家の出であるヨセフという人のいいなづけになっていて、名をマリヤといった。 御使がマリヤのところにきて言った、「恵まれた女よ、おめでとう、主があなたと共におられます」。 この言葉にマリヤはひどく胸騒ぎがして、このあいさつはなんの事であろうかと、思いめぐらしていた。 すると御使が言った、「恐れるな、マリヤよ、あなたは神から恵みをいただいているのです。 見よ、あなたはみごもって男の子を産むでしょう。その子をイエスと名づけなさい。 彼は大いなる者となり、いと高き者の子と、となえられるでしょう。そして、主なる神は彼に父ダビデの王座をお与えになり、 彼はとこしえにヤコブの家を支配し、その支配は限りなく続くでしょう」。 そこでマリヤは御使に言った、「どうして、そんな事があり得ましょうか。わたしにはまだ夫がありませんのに」。 御使が答えて言った、「聖霊があなたに臨み、いと高き者の力があなたをおおうでしょう。それゆえに、生れ出る子は聖なるものであり、神の子と、となえられるでしょう。 あなたの親族エリサベツも老年ながら子を宿しています。不妊の女といわれていたのに、はや六か月になっています。 神には、なんでもできないことはありません」。 そこでマリヤが言った、「わたしは主のはしためです。お言葉どおりこの身に成りますように」。そして御使は彼女から離れて行った。 そのころ、マリヤは立って、大急ぎで山里へむかいユダの町に行き、 ザカリヤの家にはいってエリサベツにあいさつした。 エリサベツがマリヤのあいさつを聞いたとき、その子が胎内でおどった。エリサベツは聖霊に満たされ、 声高く叫んで言った、「あなたは女の中で祝福されたかた、あなたの胎の実も祝福されています。 主の母上がわたしのところにきてくださるとは、なんという光栄でしょう。 ごらんなさい。あなたのあいさつの声がわたしの耳にはいったとき、子供が胎内で喜びおどりました。 主のお語りになったことが必ず成就すると信じた女は、なんとさいわいなことでしょう」。 するとマリヤは言った、 「わたしの魂は主をあがめ、 わたしの霊は救主なる神をたたえます。 この卑しい女をさえ、心にかけてくださいました。 今からのち代々の人々は、わたしをさいわいな女と 言うでしょう、 力あるかたが、わたしに大きな事を してくださったからです。 そのみ名はきよく、 そのあわれみは、代々限りなく 主をかしこみ恐れる者に及びます。 主はみ腕をもって力をふるい、 心の思いのおごり高ぶる者を追い散らし、 権力ある者を王座から引きおろし、 卑しい者を引き上げ、 飢えている者を良いもので飽かせ、 富んでいる者を空腹のまま帰らせなさいます。 主は、あわれみをお忘れにならず、 その僕イスラエルを助けてくださいました、 わたしたちの父祖アブラハムとその子孫とを とこしえにあわれむと約束なさったとおりに」。 マリヤは、エリサベツのところに三か月ほど滞在してから、家に帰った。